EDITORIAL

MEDIA  RENAIASSANCE

                  
1984年以来、22年ぶりに雑誌を編集した。時はそこで止まっている。しかし我々の体内時計は時を刻んでいた。我々はいま、タイムトリップしてそこまで戻らなければならない。

生命は巨大な奔流である。この奔流が停止するところに種が生まれた。我々は悠久の流れの中で生物種の一つに過ぎない。それは時間と空間という概念の中で生きている。停止はそれ自体、巨大な奔流を堰きとめることでありながら、我々はこの奔流を遡らなければならない。これがルネッサンスである。

時を逆流させること。それは人間には不可能である。なぜなら、あらゆる瞬間に一切が可能なのは神だけだからである。人間は無限に神から遠い。だがその距離だけ無限に神に近いのである。これが人間の精神だ。肉体は有限であり具体的直接的な事実性であるが、精神は抽象的で無限の可能性を秘めている。

自己とはこの可能性であり、それは精神なのである。人間が肉体に縛られることなく、みずからの精神に目覚めること。これもルネッサンスである。

メディアというのはメディアム、即ち中間である。古代では人間と神とを媒介する霊媒であった。これが媒体である。媒体は未だ自己ではない。この自己に絶望したものが現代のメディアなのである。それは自己を持っていない。

自己である主体に絶望して、客観性の多数に帰依し奉仕するのが現代のメディアである。それは多数の原理であり、大衆という多数と自己という少数の中間にあって、ただ揺れているに過ぎない。だが、我々は大衆であるか?

ほとんどの人間が大衆化して、自己である精神を忘れたのが現代人の特徴である。肉体は未だ自己ではない。自己に向かって無限に旅する者である。

なぜなら、人間の本質である精神は永遠だからである。我々は時に行き過ぎて道に迷う。この迷いを解くために最もよい方法は、我々がよって来たるもとの道にもう一度引き返すこと。このために中世のヨーロッパは古代ギリシアの精神に戻った。このような人間の知恵と信仰がルネッサンスなのである。

現代にもルネッサンスは起こった。その一例がヒッピームーブメントである。それは時代の若者が自己であろうとして、それであるために、もう一度人間の原始性に目覚めることだった。その判断は正しい。だが大衆がそれを理解しなかった。なぜなら、ヒッピーが大衆化したからである。

それはサーフィン界の現状と似ている。波乗りは極めて個人的な体験であり、課題である。そこには自己がなければならない。しかしサーフィンが大衆化し多様化することにより、サーファーという自己はそれに埋没した。この自己は人間の無限性に絶望して、有限性のなかで自己を失っているのだ。

波乗りは多くの現代人のように自己を失うことではない。波乗りは自己に目覚めること、即ち覚醒である。それは人間が単なる肉体である有限を超越して、無限の境界に飛び立つこと。この離陸をテイクオフという。

この快感が、我々の肉体的な感覚にとどまらず、明確な意識として認識できるようにならなければ、この自己は未だ自己でなく精神に到達していない。そうであるならば、我々はいかにして自己になり得るか?それが問題である。

我々が自己である本来の自己になるためには、我々が本来何者であるか夢にも知らないことが前提となる。22年前、私はサーフィン雑誌の編集発行人だった。この具体的現実性の中で私はそれであると思っていたに過ぎない。それは未だ自己の何であるかを知らない段階である。自己の何であるかを知らない人間が、波乗りが何かを知るよしもない。私はこの未熟を恥じて、姿を消した。

ここに未だ体験したことのない絶望が訪れたのである。

絶望とは人間の深遠である。多くの人間はこの絶望を知らない。あるいは知ろうとしない。人間が体験しうる最大のことは我々の幸福が嘔吐に変わること。それは未だ地上的有限的な愛と幸福しか知らない絶望であった。この病は精神において克服されなければならない。ここに私の二十年があった。

我々はこの二十年を体験した。それが我々の波乗りである。我々の波乗りは、我々が今までに乗った無数の体験の綜合、この総体が我々の行である。だからこの「行」を保持、持続させることが波乗りの「行持」であり、キープ・サーフィングなのだ。

それは快感のなかに埋没し、自己を忘れることではない。忘我という快楽は、我を忘れるというが、それは我という幻想を離れ、本体と一つになること。それは我が無になること即ち無私である。これは絶望でなく、究極の希望なのである。

私が無私ならば、私はいない。この無私が媒体であり、メディアなのである。私はただ中間にて人間の言葉を神の言葉として聞き、伝えるだけだ。即ち私が媒体である。ここでメディア・ルネッサンスというのは、媒体の過去に遡り、現在を見据え、未来に羽ばたくつばさなのである。          

Hideaki Ishii

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